お薬について その4 抗菌薬のはなし
滋賀県守山市、小児科・耳鼻咽喉科のきどわき医院です。
今回も、しつこくお薬についてのお話です。(飲み薬・塗り薬についての効果的な使い方など、前回までのブログもぜひ参考にしてください。)
抗菌薬のはなし
様々な感染症の原因になる「病原微生物」は大きく分けて「細菌」「ウイルス」「真菌」などがありますが、抗菌薬(抗生物質)は一般にこの「細菌」に対する治療薬のことをいいます。
インフルエンザや新型コロナウイルス、そのほかの各種の「かぜ」の原因になるウイルス感染症には、抗菌薬は効果がありません。(ウイルス感染に細菌感染が合併する場合もあり、その場合は抗菌薬を使用することはあります。)
そうはいっても、症状や検査結果だけで細菌感染とウイルス感染を明確に分けることができないなら、かぜ症状があるときはいつも抗菌薬を飲めば良いと考える人もいるかもしれませんが、本当にそれでよいのでしょうか。
抗菌薬をやみくもに使うとどんな困ったことがあるでしょうか
どのお薬にも、アレルギーや肝臓の機能が悪くなったりするなどの副作用が起こる危険性がありますが、抗菌薬にはそれ以外にも注意しなければならないことがあります。それは「薬剤耐性菌」です。
「薬剤耐性菌」はその名の通り、抗菌薬が効かなくなってしまった菌のことです。
新しい抗菌薬が開発されても、その抗菌薬を医療者がたくさん使うようになると、細菌はその形を変えたり抗菌薬をやっつける物質を自分で作ったりするなどして、巧妙に抗菌薬の攻撃をかいくぐるようになります。人類は抗生物質を発見してから今までずっと、薬剤耐性菌とのいたちごっこを続けてきました。
そして現在、これまで開発されたどの抗菌薬も効かない脅威の薬剤耐性菌が次々に生まれています。
薬剤耐性菌は本来、それほど病原性の強くない細菌が多いですが、薬剤耐性菌を体に持ってしまうと、次にその菌で感染症が起こった時に、以前に効果のあった抗菌薬が効かなくなります。そうすると手術で病巣を切り取ったり洗ったりするなどしてお薬以外の方法で治療せざるを得なくなることもあります。
また、細菌の薬剤耐性は自然界でも起こり、その場合ゆっくりとしたスピードで拡がっていくことがほとんどですが、抗菌薬を使うことでより速い速度で拡がることや、病原性が強い菌までもが薬剤耐性になってしまうことがあります。
どうすれば薬剤耐性菌が防げるのでしょうか
薬剤耐性菌を防ぐには、なるべくたくさんの菌を同時にやっつけることのない抗菌薬を、決められた量と期間を守ってしっかり使用することが大切です。
症状がよくなったからと言って途中で薬をやめてしまうと、抗菌薬が効く菌が中途半端に死んだあと、ほかの細菌がいなくなって薬剤耐性菌が増えやすくなってしまいます。このとき、中途半端に残った薬剤耐性のない病原菌(本来抗菌薬が効くはずだった菌)に、数を増やした薬剤耐性菌がこの薬剤耐性能力を伝搬してしまうことがあります。そうなると、病原性の強い細菌が耐性菌となってしまうことがあるのです。
抗菌薬はしっかりとした量を飲み切るということが大切だというのはこういう理由からです。
当院では抗菌薬の適正使用を心がけています。ご不明な点がありましたら担当医に遠慮なくお聞きください。