一度始めたCPAP(シーパップ)治療はやめられるか

こんにちは。滋賀県守山市、小児科・アレルギー科・耳鼻咽喉科のきどわき医院です。

当院耳鼻咽喉科では睡眠時無呼吸症候群の診断と治療を行っています。

「CPAP治療って、一度始めたら一生続けないといけないの?」

そんなご質問をよくいただきます。

この記事では、

  • CPAP治療とはどんなものか
  • メリット・デメリット
  • やめるためにできること

をわかりやすくご紹介します。

寝ている間に何度も呼吸が止まったり(無呼吸)、浅くなったり(低呼吸)する病気です。日中の強い眠気や疲れ、集中力の低下だけでなく、心臓や脳への負担も大きくなります。放っておくと、高血圧や糖尿病、心筋梗塞、脳卒中などの重大な病気につながることがわかっています。

(詳しくは、当院ホームページ「睡眠時無呼吸症候群の診療」をご参照ください)

CPAP(シーパップ)治療は、睡眠時無呼吸症候群(SAS)の方に行う、もっとも一般的な治療法です。

寝るときに専用のマスクを鼻や口に装着し、機械で空気を送り続けて気道がふさがるのを防ぎます。手術は不要で、機械が届けばその日から治療を始められます。

CPAP療法にはメリットがたくさんあります。

  • 無呼吸・低呼吸をしっかり防げる

中等症から重症の睡眠時無呼吸があっても、睡眠中の無呼吸・低呼吸を効果的に防ぎ、血中酸素低下や心血管系への負担を軽減できます。

  • 手術が不要

手術は必要なく、鼻か口から空気を送り込むマスクをつけて眠るだけで治療を行います。身体への負担が少なく、低侵襲の治療です。

  • 自覚症状の改善が期待できる

日中の強い眠気や集中力低下、夜間の頻尿、寝汗などの症状が改善しやすく、「もうCPAPなしでは寝られません」と喜ばれる方も多いです。

  • 重い合併症(心筋梗塞や脳卒中など)のリスクを下げる効果が証明されている

また、特に強調したいのは、心筋梗塞や脳梗塞など重篤な合併症のリスクを低減する効果が証明されていることです。重症の患者でも、適切にCPAP治療を行うことで健康な人と同等の長期予後が期待できます。

いいことづくしのCPAP療法ですが、もちろん欠点もあります。

  • 毎晩マスクをつけて寝る必要がある

夜寝るときに基本的に毎日毎日マスクを装着して寝なくてはいけません。マスクに慣れるまでは違和感や不快感を感じやすく、マスクによるかゆみや結露、のどの乾燥などで、特に治療開始すぐの頃は装着が難しいと感じる方もおられます。

もちろん、風邪をひいている時や休暇中など、少し治療をお休みしたいときもあると思います。CPAP治療で十分な効果を得るためには、4時間以上装着している割合が7割を超えることが目安です。

  • 出張や旅行時の持ち運びが面倒

また、CPAPの本体は大きめのお弁当箱ぐらいの大きさですが、出張や旅行の時は持ち運ばないといけないため不便に感じるかもしれません。

  • 原則月1回の通院が必要

保険診療を受けるために原則月1回は通院による機器使用状況の確認が必要となります。1回の通院による自己負担は、3割負担の方で4500円程度です。

  • CPAPは「根本治療」ではなく、対症療法

CPAP治療は根本治療ではありませんので、マスクを装着しないと効果は得られません。そのため、睡眠時無呼吸が解消されるまでは装着を続ける必要があるのもデメリットといえるでしょう。

原則、無呼吸が続く限り、CPAPは必要

CPAP治療は、あくまで「無呼吸を防ぐための対症療法」です。根本的に無呼吸が改善しない限り、治療の中断はおすすめできません。

ただし、気道の閉塞の原因が改善すれば、CPAPをやめられるケースもあります。

CPAP治療をやめるためには、睡眠時無呼吸症候群の重症度が改善し、無呼吸低呼吸指数(AHI)が20未満になることが主な条件です。

減量(ダイエット)

肥満は睡眠時無呼吸症候群の最大のリスク因子のひとつです。首回りや咽頭周辺、舌の付け根などに脂肪が蓄積すると、気道が狭くなり、睡眠中に気道が塞がれやすくなります。これが無呼吸やいびきの主な原因となります。

体重が10%増加すると、睡眠時の無呼吸の割合が約3割増加し、逆に10%減らすと26%減少したという報告があります。

適度な体重変化と睡眠呼吸障害に関する縦断的研究 – PubMed

口腔内装置(マウスピース)の装着

下あごを前に出す形で装着することで、舌が喉の奥に落ち込むのを防ぎ、気道を広げる装置です。マウスピースもCPAPと同じく「対症療法」であり、根本的な治療ではありません。

重症度や気道の閉塞部位によっては、効果を十分に発揮できない場合もあります。

睡眠時無呼吸症候群のためのマウスピースが必要であり、治療を希望される場合は歯科口腔外科にご紹介の上作成していただいています。

手術による治療

気道がどこで狭くなっているかによって、手術の方法が異なります。

  • 鼻づまりが原因の場合:鼻の手術
  • 口蓋扁桃(俗にいう扁桃腺)が大きい場合:扁桃摘出術
  • 上あごの粘膜の位置が低い場合:「口蓋垂軟口蓋咽頭形成術(UPPP)」という手術(特に50歳未満で有効)

他にも、「舌下神経電気刺激療法」という治療があります。2021年に保険適用が認められた新しい治療法です。

舌下神経(舌を動かす神経)に電気刺激を与える装置を埋め込む手術を行い、就寝中に舌がのどの奥に落ちこんで気道が狭くなるのを防ぎます。

ただし、対応できる医療機関はまだ限られています。


以上、CPAPをやめるための様々な方法をご紹介しました。いずれの場合も、睡眠時無呼吸症候群が改善しているかどうか、再評価を行うことが大切です。適切な治療法の選択や治療終了のタイミングについては、必ず担当の医師とご相談ください。