抗菌薬は必ず飲み切りましょう

薬を飲んでいる人のイラスト

こんにちは。滋賀県守山市、小児科・アレルギー科・耳鼻咽喉科のきどわき医院です。

今回は抗生剤(抗菌薬)の正しい使い方についてのお話です。当ブログではすでに何度かお伝えしていますが、重要なテーマですので繰り返しお伝えしていきます。

「症状が治まったから」「もう元気になったから」と、途中で抗生剤の服用をやめてしまう方が時々いらっしゃいます。

症状が良くなったのにお薬を飲み続ける、また飲ませ続けるのが大変なお気持ちは自然なことです。中には、「次悪くなった時のためにとっておこう」という方もいて、そのお気持ちもよくわかります。

ただ実はこの「飲み残し」が、将来の健康、そして社会全体の医療にとって大きな問題を引き起こす可能性があるのです。

なぜ、医師が「飲み切ってください」と指示した日数分を、症状が消えた後も続けなければならないのでしょうか。その理由は、体内で起きている目に見えない戦いにあります。

その理由を3つお話します。

抗菌薬が効き始めると、病気の原因となっていた細菌の大部分はすぐに死滅し、症状は急速に改善します。しかし、この段階ではまだ生命力が強く、しぶとい少数の細菌が体内に生き残っている可能性があります。

途中で服用をやめてしまうと、この残った少数精鋭の菌が勢力を盛り返し、病気が再燃してしまいます。しかも、生き残った菌は薬に触れたことで「耐性」をつけていることがあり、次に同じ薬を使っても効きにくくなっている(パワーアップしている)可能性があるのです。これを薬剤耐性化といいます。

これが最も重要な理由です。

中途半端な量や期間だけ抗生剤を飲むと、体内の細菌は「この薬は効かないぞ」と学習し、薬が効かないように遺伝子の仕組みを変えてしまいます。これが「薬剤耐性菌」です。

これは、ゲームで例えるなら、敵のボスを倒す直前で攻撃を中断してしまい、生き残ったボスが「最強の鎧」を身につけてしまうようなものです。

一度耐性を持った菌が増えると、病気になったときに通常の抗菌薬が効かず、治療が非常に困難になります。これは患者さんご自身の治療の選択肢を狭めるだけでなく、世界的な医療の脅威となっています。

完全に細菌を叩ききらずに服用をストップしてしまうと、体内に残った菌が、免疫力の低いご家族や周囲の方にうつってしまうリスクがあります。もしその菌が耐性菌だった場合、感染したご家族も治療に苦慮することになってしまいます。

Q1. 途中で飲み忘れたら、どうしたらいい?

A. 気づいた時点で1回分を飲ませてください。ただし、次の服用時間まで十分な時間(目安として4~6時間以)をあけるようにしましょう。

絶対に2回分を一度に飲ませることは避けてください。薬の濃度が急激に上がり、副作用が出やすくなる可能性があります。服用間隔が心配な場合は、自己判断せず、必ず医師にご連絡ください。

Q2. 飲んだ後、下痢や嘔吐の副作用が出た場合

A. 自己判断で中止せず、すぐに当院にご相談ください。

抗菌薬は腸内の善玉菌も一緒に殺してしまうため、下痢や軟便は比較的よく起こる副作用です。また、抗菌薬の中には腸の動きを良くしてしまうものがあり、そのために下痢気味になったり腹痛を引き起こすこともあります。

軽度であれば服用を続けるべきですが、ひどい下痢や嘔吐の場合は、薬の変更や一時的な中止が必要な場合があります。自己判断せずにまずは処方された医師にご相談ください。

Q3. 抗生剤は整腸剤と一緒にもらった方がいい?

A. 当院では、抗生剤を処方する際に、副作用の予防として整腸剤も一緒に処方することが多いです。

整腸剤は、抗生剤によって乱された腸内環境をサポートし、下痢などの副作用を軽減する役割があります。国際的な研究でも、整腸剤を抗生剤と併用することで、特に小児の抗生剤関連下痢症の発症リスクが低減することが示されています。

参照:Goldenberg, J. Z. et.al. Probiotics for the prevention of antibiotic‐associated diarrhea in children. Cochrane Database Syst Rev. 2019

抗生剤は細菌をターゲットにした薬です。ところが、お子様の鼻水や咳などの「一般的な風邪」の8~9割はウイルスが原因です。ウイルスには抗菌薬は全く効きません。

抗菌薬の乱用を防ぎ、必要なときに確実に効くようにするためにも、「抗生物質をください」というご要望には安易にお応えできません。診断に基づき、医師が必要と判断した場合にのみ処方していますので、ご理解をお願いいたします。