おもちがのどに詰まったときの対処法とその予防

こんにちは。滋賀県守山市、小児科・アレルギー科・耳鼻咽喉科のきどわき医院です。
もうすぐお正月ですね。お正月といえばお雑煮や磯辺焼きで楽しむおもちですが、この時期には餅や団子など粘り気のある食べ物で気道を詰まらせる「窒息事故」が増えます。
小さなお子さんからご年配まで、誰にでも起こり得る事故です。ここでは、詰まったときの症状や「大人と子ども別」の応急手当の方法、そして普段からできる予防ポイントを解説します。
目次
のどに詰まったときに見られるサイン
次のような症状が出たら、食べ物が気道に詰まり始めている可能性があります。
・激しいせきやゴロゴロ・ヒューヒュー音がする
胸や腹を使って詰まった物を吐き出そうとしているサインです。
・声が出ない、話せない
異物で声帯がふさがれている状態です。手でのどを押さえる仕草(チョークサイン)も現れます。
・顔色が青白くなる
呼吸ができず酸素不足になると唇や顔が紫色がかり、次第に意識がうすれていきます。
応急手当 幼児(1歳以上)~大人の場合
大人や幼児(1歳以上)の場合、まずは強いせきを促すことが基本です。
それでも異物が出なければ、以下の手順で応急手当を行います。周囲の人に119番通報やAED手配を依頼しつつ、迅速に行動しましょう。
1.背部叩打法(背中をたたく)
のどが詰まっている人の背後から片腕を回し、もう片方の手のひらの付け根で肩甲骨の間を数回以上強くたたきます(座っていても立っていても同様です)。咳を促し、異物押し出します。
2.腹部突き上げ法(ハイムリック法)


背部叩打法で異物が取れないときは、お腹を突き上げます。助ける人が背後から抱きかかえるようにし、片方の手で拳を作っておへその上(みぞおちとへその間)に当てます。もう一方の手で拳を握り、図のように急に内側かつ上方向に強く押し上げます。これにより、胸の空気圧で詰まったものを押し出します。
※注意: 妊娠中や明らかにお腹が大きい人、腹部が重度肥満の方、乳幼児には腹部突き上げ法を行いません。その場合は背部叩打法のみ行い、救急車を待ちましょう。
3.心肺蘇生(CPR)の開始
もし意識がなくなったり呼吸が完全に止まってしまったら、ただちに心肺蘇生を開始します。救助者が一人の場合、先に119番通報してから心臓マッサージと人工呼吸を始めます。異物が見えていれば注意して取り除きますが、見えないときに無理に指を突っ込むと逆効果になるのでやめましょう。
心肺蘇生の方法については、日本医師会の公式解説ページがよくまとまっていますのでご参考にしてください。
これらの応急処置を行った後は、たとえ異物が除去できても医療機関で診察を受けてください。気道に傷がついていたり、吐き出しきれなかった破片が残っている可能性があるためです。
応急手当 乳児(1歳未満)の場合
1歳未満の乳児は大人と体格が違うため、処置方法も異なります。応急手当の基本は以下の通りです。
・背部叩打法(乳児の場合)
乳児を保護者の片腕にうつぶせに乗せ、頭を体よりも低くなるよう位置を調節します。もう片方の手で乳児のあごをしっかり支え、背中(肩甲骨の間ではなく背中の真ん中)を平手で5回ほどたたきます。異物を吐き出す効果をねらいます。
・胸部突き上げ法(乳児の場合)
乳児をあおむけに寝かせ、あごをあげて頭をやや後ろ向き倒します。両乳頭を結んだ線の中央あたりを目安に、指2本で胸骨をまっすぐに5回ほど押し上げます。大人の腹部突き上げ法に似ていますが、乳児に合わせて胸を圧迫する方法です。
交互に繰り返す
上記の背部叩打法と胸部突き上げ法を交互に数回ずつ繰り返します。5回ずつ1サイクルとし、異物が取れるまで続けます。
119番通報と心肺蘇生(CPR)
乳児も重篤な場合はすぐに119番通報を依頼し、意識がなくなったら小児用CPR(胸骨圧迫と人工呼吸)を開始します。
子ども用の心肺蘇生の方法についても、日本医師会の公式解説ページがよくまとまっていますのでご参考にしてください。
いずれの場合も、周囲の助けを借りて安全に素早く対応しましょう。
こんなときは迷わず119番を!
おもちがのどに詰まったとき、迷わず119番通報が必要な状態があります。
次のような様子が見られたら、すぐに救急車を呼んでください。
- 息ができていない、呼吸が止まりそう
- 声が出ない、返事がない
- 顔色が悪い、唇が紫色になっている
- 激しくせき込んでいたが、急に静かになった
- 意識がもうろうとしている、または意識がない
- 背中をたたいたり応急手当をしても改善しない
通報の際は、
「おもちをのどに詰めて、呼吸ができません」
と伝えると、救急隊が状況をすぐに理解できます。
※救急車を呼んだあとも、指示があれば応急手当を続けてください。
やってはいけないこと
次の行為は避けてください。
- 無理に水やお茶を飲ませる
→ おもちがさらに奥へ押し込まれる危険があります。 - 指を口の奥に突っ込んで取り出そうとする
→ 見えない異物を押し込んだり、のどを傷つける恐れがあります。 - 強く揺さぶる、逆さまにして振る
→ 効果がなく、転倒やけがの原因になります。 - 「そのうち取れるだろう」と様子を見る
→ 窒息は短時間で命に関わります。判断の遅れが危険です。 - 正しい方法を知らないまま腹部を強く押す
→ 内臓損傷を起こす可能性があります
(特に乳幼児・妊娠中・高齢者では注意が必要です)
おもちによる窒息を防ぐための予防法
おもちの窒息事故を未然に防ぐために、普段の食べ方にも気をつけましょう。家族全員で以下の点を守ると安心です。
小さく切る・量に注意
おもちは必ず一口大に小さく切り分けてから食べましょう。高齢者や嚥下機能の低下した人には特に細かく切って提供します。
ゆっくりよく噛む
おもちは粘り気が強いので、急いで飲み込まず口の中でしっかりつぶすイメージでよく噛みます。食事中に話したり動いたりしないように注意しましょう。おもちを食べるときは真剣に!
水分・汁物と一緒に
食事前や食べながらお茶・汁物でのどを湿らせましょう。お雑煮やおしるこなど水分の多い料理にして食べるとおもちが柔らかくなり、滑りもよくなって詰まりにくくなります。
姿勢に気をつける
食べるときは背筋を伸ばし、少し前かがみの姿勢でゆったり食事します。立ち歩いたり横になったりすると誤飲のリスクが高まるので避けましょう。
見守り・注意を払う
小さな子どもや高齢者と一緒に食事する際は、食べている様子をそばでよく見守りましょう。咳き込みや異変があればすぐに対応できるよう、声をかけたりフォローしたりすることが大切です。

お正月だからこそ、家族全員でおもちの危険性と対処法をしっかり確認しておきましょう。ちょっとした工夫と知識で、楽しい新年を安心して迎えましょう。
